軽視できない、お口の3大トラブル – 歯周病、口臭、ドライマウス

お口のトラブルは明確な症状が出にくいため、「まぁ、大丈夫」と軽くとらえがちではないでしょうか?
しかし、そのままにしておくと、命にもかかわることにもなりかねないことが分かってきました。

もともと人間の体は、たくさんの「常在菌」という細菌と共存しています。口の中にも大量の常在菌が住み着いていて、総数50億から100億。通常は唾液の働きや体の抵抗力、歯みがきケアによって常在菌とうまく共存しています。
しかし、何らかの原因で口の健康バランスが崩れると、常在菌が異常繁殖してしまいます。この常在菌の中には、虫歯や歯周病の原因となる細菌も含まれているので、口のトラブルの発症や症状の悪化がおこるのです。

ここで、軽視できない、一般的に起こりやすい3つのトラブルをご紹介します。

その1 歯周病が原因で死に至る??

~単なる歯ぐきの病気ではなく、命の危険を伴う体の病気とも関連が。まずは、静かに進行する歯周病についてよく理解することが大切です~

中高年の9割は歯周病になっている!

かつては歯槽膿漏といわれ、高齢者の病気のように思われていた「歯周病」。 現在では、歯科に関する病気で、唯一厚生労働省から「生活習慣病」として指定されています。これは、加齢によるものではなく、日々の生活習慣が大きく影響しているから、と言えます。
つまり、10代や20代でも、症状が悪化すれば歯が抜けてしまいますし、逆に、お年寄りでもきちんとケアすれば、発症や進行を防ぐことが十分可能といえます。

しかし、事態は深刻です。歯が抜ける原因の50%以上がこの歯周病であり、30代で80%、中高年だと90%もの人が歯周病にかかっています。
また、歯周病は静かにゆっくり深くまで進行する慢性の感染症です。虫歯のような「痛み」や、違和感などの自覚症状が少ないため、ついついほうっておいてしまいがちです。
歯ぐきが腫れて疼いたり、歯がグラグラして食べ物が挟まったりするようになって病院に行ったときには、すでに手の施しようがないほど悪化しているケースも少なくありません。さらに最近の研究では、歯周病が心臓病などの他の病気を引き起こす原因となる可能性も、指摘され始めてきました。

入れ歯や義歯の人も、歯周病になる可能性があります!

歯周病はその名のとおり、歯の周りの歯茎におこるため、総入れ歯の人はわずらいません。でも、部分入れ歯や固定式義歯(ブリッジ)などを使用している人は、入れ歯を固定する留め具の周りに歯垢がたまりやすく、掃除も困難です。また、うまくかみ合ってないと、歯茎に負担もかかり、歯周病の発症や悪化の確率が高くなります。

歯周病が心臓病や動脈硬化、糖尿病、インフルエンザを招く??

歯周病の原因菌の一つ、ジンジバリス菌。最近の研究で口の中だけではなく、心臓病をわずらわった人の心臓の血管からも見つかりました。毒を出し、血液を固まりやすくすることも分かり、心臓病(心血管系疾患)の原因のひとつとなっているのでは?と推測されています。同様に、動脈硬化や糖尿病、早産も歯周病との関連が疑われています。
さらんい、歯周病の原因菌はインフルエンザウイルスの感染のカギを握っていると考えられます。ある介護福祉で歯みがきなどの口腔ケアを徹底したところ、感染率が10分の1に激減しました。原因菌は、ウイルス感染の手助けをするプロテアーゼという酵素を作り出すことが分かっています。つまり、感染率が減ったのは口腔ケアによって原因菌を減らしたことで、この酵素も減ったためと推測できます。

歯周病のメカニズムを良く知りましょう!

歯周病とは、炎症が歯肉だけに起こる「歯肉炎」と、歯を支えるための周りの骨(歯槽骨)にまで及んでしまう「歯周炎」、この2つの病気の総称です。
20代~30代前半の約7割~9割の人は「歯肉炎」、30代半ば以上の約8割の人は「歯周炎」のなんらかの症状をもっていると言われています。
ここでは、各段階の症状と対処法をご紹介します。

第1段階 歯肉炎

歯垢の中の細菌が歯茎に住み着き、歯茎は炎症を起こして腫れる。
この腫れにより歯と歯茎の境目に浅い歯周ポケットができて歯周病の原因菌(嫌気性細菌)が住み着き始める。歯みがきで出血することがある。

<対処法>
クリーニング、歯みがきで歯垢を除去すれば完治する。

第2段階 歯周炎初期

歯茎の腫れをほうっておくとひどくなり、深くなってしまった歯周ポケットに歯垢がどんどんたまる。歯垢は歯石化。嫌気性最近が増殖し、歯茎を溶かし始める。

<対処法>
まずは歯科でのクリーニングで歯石を除去し、その後の正しい歯みがきケアで健康状態まで回復することができる。

第3段階 歯周炎中期

嫌気性細菌は毒を出して歯茎を溶かすため、歯周ポケットはどんどん深くなる。歯茎がやせるため見た目に歯は長く見え、歯と歯の間の隙間も広がる。
腫れた歯茎からうみが出ることもあり、口臭もひどい。

<対処法>
すぐに歯科へ、適切な治療が必要です。

第4段階 歯周炎末期

歯茎はうんで黒ずんでくる。嫌気性細菌の出す毒が、歯槽骨付近にいる破骨細胞(骨を破壊する細胞)をますます活性化。歯はいつ抜けてもおかしくない状態です。

<対処法>
すぐに歯科へ。手術で歯槽骨の再生も可能だが、病態が進行しすぎていると手遅れの場合もあります。

上記のとおり、歯周病は進んでしまってからでは手遅れになることもあります。それは大掛かりな治療になってしまったり、治療期間が長くなることにつながります。
一見症状がないようでも、進んでいっていることもありますので、意識的に、医院でクリーニングなどの予防をされることをおすすめします。

その2 口臭は、細菌が増殖しているサイン!

~口臭は、人に言えず悩んでいる人も多いため、意外と誤解が多い症状。実は唾液の働きや歯周病と深いつながりがあるのです~

口臭の強さは唾液量と比例する

「食事をしたばかりだから」「胃腸の調子が悪いから」とよく言われますが、実はこれは口臭の原因ではありません。
実験で、24時間にわたり口臭の変化を追跡してみたところ、口臭は1日を通して変化していることがわかりました。
食事などでたくさん唾液が出ると、口の中にたまったにおい成分は洗い流され、口臭は弱くなります。一方空腹時や緊張時、睡眠時など、唾液が減少すると、におい成分が口の中にとどまり口臭は強くなるのです。つまり、口臭の強さは唾液の分泌量に関連しています。

口臭の犯人は細菌!舌の上にもご用心

ところで、このにおい成分の正体とは?
それは、歯周病の原因菌でもある嫌気性細菌がだす微量物質(硫黄化合物やメチルメルカプタン)です。つまり、ふだんから口臭がある人は歯周病が原因というケースがほとんど。この場合、歯周病の治療(歯垢や歯石の除去)で問題ないレベルまで解決できます。
次に多い口臭の原因は、舌苔(ぜったい)です。いずれにしても口臭には、すべて嫌気性細菌が関連しているのです。
また、胃が悪いからという認識は間違いです。食道はふだん閉じられているので、胃から直接においが上がってくることはありません。
口臭の感じ方には個人差があります。周りには相談しがたい、ご自分では気が付かないこともありうるので、気になる方は相談されることをおすすめします。

緑茶の粉末が消臭効果No1!

実験で、歯みがき、ガム、ミント、緑茶、粉末の緑茶をつかって消臭効果を調べてみたところ、においが3割以上減ったのは、歯磨きと緑茶で、さらに6割以上も減ったのは粉末の緑茶でした。(図参照)
歯みがきは歯垢を取ることで嫌気性細菌を減らすことができ、緑茶はカテキンの消臭効果が働いていたためと考えられます。緑茶の粉末はカテキンの消臭殺菌効果が直接舌苔に作用したためと考えられます。ガムやミントは主に爽快感を得るためのもので、一時的なものであるといえます。

その3 ドライマウスが肺炎を招く!

~「ただ口が渇いているだけでしょ」というのは大きな間違い。舌の痛みや、味覚障害、ひいては様々な体の病気を引き起こす可能性がわかってきました~

単なる口の渇きではない知られざる症状の実態

唾液は、食べ物のカスを洗い流したり、唾液に含まれるリゾチームやラクトフェリンなどの抗菌成分が、虫歯や歯周病を招く有害な細菌を24時間体制で退治してくれています。
でも、唾液の分泌が減少し、常に口が渇いた状態「ドライマウス」(口腔乾燥症)になると、口の中の環境が悪くなり、常在菌が増殖するため、口臭が現れ、虫歯や歯周病も悪化しやすくなるのです。
重症になると、舌がひびわれて味覚障害が起き、食べ物が飲み込みにくくなったり、舌が絡まって話しづらい発音障害も起こったりします。さらには、常在菌が誤って気管に紛れ込み、肺炎をわずらう可能性も高まることがわかってきました。

もはや「口やのどがかわくだけだろう」とあなどってはいられない深刻な病気。現在日本のドライマウス人口は800万人以上と推定され、年々増加しています。

いつも心に「梅干し」を、心がけるだけでも効果あり!

ドライマウスはその原因が多種多様に考えられるため、治療が難しいといわれていますが、症状が軽いうちなら、生活習慣の改善やストレスの除去を心がけるだけでも、症状が軽減される場合も多いです。
食事の際は良く噛んで、また、梅干を思い浮かべてみるだけでも効果的です。

ドライマウスの原因として・・・

精神的ストレス・緊張、常用薬(血圧降下剤や抗不安剤・利尿薬など)の副作用、やわらかい食品の摂取、糖尿病や肝臓疾患、シェーグレン症候群(全身性の慢性炎症性疾患)などがあげられます。

高齢者の肺炎の多くは口の常在菌が犯人

ドライマウスが引き起こす症状のうち、いま最も問題になっているのが「肺炎」です。
私たちは普段、「ゴクリ」と唾液を飲み込むことで、唾液の抗菌作用では退治しきれなかった常在菌を胃酸で殺菌します。
ところが、唾液の分泌が不足すると、この「ゴクリ」がうまくできなくなります。その結果、常在菌が気管に紛れ込み、免疫能力が低下していると、肺炎を引き起こす原因になるのです。
老人施設で、舌の運動などで唾液の分泌を促進して、口腔ケアを行ったグループと、そうでないグループで肺炎による死亡率を比べたところ、唾液の分泌を促進したグループの死亡率は、そうでないグループの3分の1以下という結果が見られました。
高齢者の肺炎の多くは、この常在菌によるものであることがわかってきています。